写真は後述する吉田安政氏の愛弟子の木佐貫シェフ(鹿児島市 巴里市場)によるクレープシュゼットの調理実演です。これはクレープにバター、砂糖、オレンジの皮と果汁を塗って四つ折りにして、グランマルニエやキュラソーなどのオレンジリキュールでフランベする私の最も好きなスイーツです。火をつけることでアルコールが蒸発してメイラード反応をきたし濃厚なカラメルソースとなります。コニャックやナポレオン、VSOPなどのブランデーを仕上げに用います。シュゼットという名称は女王の名前など諸説あります。
昭和の頃から食べ続けてきましたが、本格的に出す店はわずかとなったようです。今回閉店の知らせを聞いて数年ぶりにメゾンドヨシダ(写真 福岡市)に伺いました。勿論ムッシュ直々のシュゼットを頂きました。中州「花の木」の頃が時代も私の人生も“バブル絶頂”で、当時を思い出し万感の思いでした。店内の照明が暗くなり自分の卓上で青い炎がメラメラとふくよかな香りとともに輝きを放ち、火が消えるまでの心待ちな瞬間を醸し出す、これ以上のスイーツは他に類を見ないと思います。
最近は発達障害という疾患がトピックです。この数年で広範性発達障害(PDD)、注意欠陥多動性障害(ADHD)、従来の自閉症を包括化して自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder:ASD)という診断名に統一され、その中にアスペルガー症候群という疾患があります。この疾患の特徴の一つに嗅覚過敏をはじめとする感覚過敏があり、近年正式な診断基準に含まれたそうです。
においが判らない嗅覚減退・脱失に対して嗅覚過敏という概念は耳鼻咽喉科でも時々経験しますが、多くの患者は成人で、訴えが特徴的で心因的な問題に起因する事例がほとんどです。それに対して小児・青少年で「いろいろな物のにおいを嗅ぐ癖がある」「特定の対象物を過度に嗅ぐ」「においが気になるため繰り返し手を洗う」「においに敏感過ぎるため偏食が激しい」「洋服のにおいのみで誰の衣類かを当てることができる」という方々がおり、アスペルガー症候群の可能性が示唆されます。そういう患者さんを嗅覚検査してみましたが、嗅覚の能力が抜群に優れているという訳ではなく、におい対する強い興味・態度を周囲に示すため嗅覚に卓越していると周囲に見做されることが多いようです。
大脳辺縁系での感覚情報の処理能力に問題があることが指摘されており、落ち着かない、少しのにおいでも嘔吐してしまうなどの悪循環に陥り、コミュニケーション能力や社会への不適応が問題視されています。打開策として嫌いなにおいを用いない・設けないなどのにおい環境の配慮が必須なので社会的な理解と周囲の方々の協力は不可欠だと思います。
<参考文献>
ブレンダ・スミス・マイルズ他/アスペルガー症候群と感覚敏感性への対処法/東京書籍
榊原洋一/アスペルガー症候群と学習障害/講談社
神崎晶/JOHNS嗅覚とその障害/東京医学社