第60回 平成28年4月28・29日(木・金)
紅茶と香り(参加者12名)薩摩英国館&平川農園
今回は60回を記念してセミナー初の2日間開催としました。
薩摩英国館の田中京子館長は、鹿児島県と言えばお茶という土地柄にも関わらず、茶葉の徹底した品質管理・独自の紅茶製造方法にて、英国国際食品コンテスト「グレート・テイスト・アワード」で金賞を数回受賞されています。
▼茶摘み
芯芽(FOP:フラワリーオレンジピコー)とすぐ下の若葉2枚(オレンジピコー、ピコー)を丁寧に手で摘み取ります。ピコーとは芯芽や若葉の裏側に生えている白く細いうぶ毛のことで中国語でペーコーと発音するため、このように呼ばれるようになったそうです。
もし虫が繁殖しても茶畑が全滅しないように、適度な広さで数か所ずつ広げていかれたそうです。摘む時のプツンという柔らかい感触が気持ちいいのですが、茶葉はさすがにまだ青臭いにおい(香り成分:青葉アルデヒド=ヘキセナール)でした。
▼萎凋(いちょう)
茶葉の水分を飛ばして萎れさせ、揉みやすくするために金網に広げて、下に温風を通した状態で一晩(10〜15時間ほど)干します。これで水分が30〜40%ほど蒸発します。実際、萎凋前後で1.6kg→1.14kgの測量結果でした。
暖房で温度調整した茶葉の方がより黄緑色で、草の香りが強かったです。
本日摘み取った茶葉は仕上がりが明日なので、他品種と既成紅茶とを飲み比べました。
ウバ茶はサロメチール臭(香り成分:サリチル酸メチル)とのことですが、それにしても随分苦く、渋みもかなり感じました。アールグレイはさすがにフルーティーでしたが、ベルガモットは果皮でなく精油を入れると聞いて驚きでした。薩摩英国館の「夢ふうきファーストフラッシュ」(茶葉:べにふうき 上記金賞受賞製品)は濃く鮮やかな紅茶色で、風味は鮮烈さに満ちたダージリンというところでしょうか。
カテキンの集まりである"ゴールデンリング"や、最後の1滴である"ベストドロップ"などの紅茶用語の他に、テイスティングの際は手の湿気が付かないようにティースプーンの柄は長めに持つ、ジャンピングは3分ほどで、ティーソーサーで煎れる際は茶こしを押し下げてはいけない、という事などを教わりました。
▼揉捻(じゅうねん)
葉の組織細胞を砕いて、酸化酵素が含まれている葉汁を出します。この作業により酸化発酵が促される訳です。
1kg用揉捻機、2kg用、手揉みの3種類で分けて作業しました。私も手揉みに挑戦しましたが意外と重労働でした。この頃には少しずつ心地よい青葉の香りになっていました。
20〜25℃で湿度90%に近い発酵室に寝かせます。
2時間かかるため、この間に車で20分の薩摩英国館へと皆で移動しました。
▼薩摩英国館
田中京子先生に御講話頂いた後は、ランチ&ハイティーです。英国風カレーはスパイシーというよりトマトを中心としたトロピカルな香りのカレーでした。
紅茶のアフォガードが驚くほど美味で、かける紅茶はニルギリ(インド南部)茶+ケニア茶で少しほろ苦く、かける紅茶の量とアイスクリームの溶ける量との時間的経過で風味が刻々と移り変わり、最終的には"食べる冷たいロイヤルミルクティー"状態でした。
▼紅茶のアフォガード
ちなみにミルクティーは先に紅茶を煎れて飲む時に牛乳を加える、最初から牛乳で煮出す(チャイ)など種々作り方がありますが、先生のお勧めはまず茶葉を少量のお湯に煎れてから牛乳で煮立てるセイロン風だそうです。その理由は牛乳のカゼインが紅茶の葉への水分の浸透を妨げ、葉が完全に開かないからだそうです。また牛乳を沸騰させないこともポイントだそうです。
その後各自、館内の紅茶博物館を見学したりお土産を購入したりして再び平川農場へと戻りました。
工場に帰ってきてすぐに、茶葉が酸化酵素の働きによって緑色から鮮やかな赤褐色になり始めているのが判りました。また試飲した残り香から初めて紅茶の香り(香り成分:主にリナロール、ゲラニオール)を感じました。
▼乾燥
発酵を止めるため80℃以下の熱風で水分3〜4%になるまで乾燥させます。葉は固く収縮し紫茶色になります。
▼紅茶試飲
待ちに待った出来立ての"匂いと香りのセミナー茶"を飲みました。
機械よりも手揉みの方が、また我々よりも先生が萎凋処理された茶葉の方がより柔らかく、繊細で淡い香りを如実に体感することが出来ました。
2日目は祝日で一般の観光客への配慮のため、何と早朝8:30に現地集合と大変でしたが、天候にも恵まれ、何より紅茶の製造全工程が実体験できて良かったと思いました。
最後に1年のうちで収穫に最適な、まさしくファーストフラッシュな時期にセミナーを設けて頂いた薩摩英国館の皆様には心より感謝致したいと思います。